エッセイ ラウタサロさん 2009年1月27日
奇跡の人、ラウタサロさんのご冥福を心から祈ります。
1月22日、長い間の友人で指揮者、チェリストであったラウタサロが亡くなりました。
昨年9月に吉松隆さんの<ケフェウス・ノート(フィンランド初演)>を指揮してくれた彼です。
もしかしたら最後のコンサートになるかもしれないので、是非、私とやりたいと言ってくれ、実現したコンサートでした。
私も奇跡のような人間かもしれませんが、ラウタサロこそ本当に奇跡の人です。
心から冥福を祈ります。 (舘野泉)
二月のある寒い日、チェリストのヘイッキ・ラウタサロから電話がかかってきた。愛称はコンデ。どういう意味だかわからないが、愛嬌がある。お茶でも飲まないかという誘いだった。彼と会うのも何年振りであろうか。エークベルイに行った。「俺はお前と同じ時期に同じ病院に入っていたんだぞ。電話をしたがつながらなかった」と言う。彼にとっては何度目の入院で、何度目の手術なのだろう。コンデは、リュウマチだ。若い頃は士官学校のエリートで陸上の選手でもあった。オリンピックにも出たそうである。背が高く、颯爽としていた。それが、ある日重量挙げのバーベルを背中に落として、それからおかしくなったのである。一時にではなく、三十年の間に少しずつ背が丸くなり、小さくなっていった。今では丸くなっただけでなく右にも左にも回らなくなっている。入院も何回になるか分からない。でも、元気なのである。退院すると時にはソロ、時にはオーケストラを指揮して、南米やらオーストラリアまで行ってくる。ああ、苦しい、痛いと言うので同情していると、がらりとひっくり返して大笑いとなる。精神に胡椒(こしょう)が入っているのか、とにかく、よい意味での人生の達人だ。ほかの人間だったら、とっくに演奏なんかやめているだろう。彼とも随分たくさん、一緒に演奏した。気が合うのである。彼が上海音楽院の客員教授を務めていた時には、私も北京や上海に演奏に行った。それはともかく、私たちがテーブルを囲んでいる姿は見ものだったろう。一人は背中が海老のように曲がり、もう一人は、手も口もおぼつかない。それでいて、我々に人生は一瞬微笑み、花開き、そして豊麗に香り漂ったのである。帰りのわずかな道を、コンデは私が雪で滑らないようにとおくってくれた。数日後、彼はオーケストラを指揮して、60歳の誕生日を飾った。
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